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採用時に【秘密保持誓約書】の提出を拒む者の採用を取り消すことは可能か

採用が決定した採用内定者に対して、労働契約書を含め、様々な種類の書類を記入いただくことがある中で【秘密保持誓約書】も記入していただく会社も多いことと思います。そんな中、内定者が記入を拒否した場合にどのような取扱いが可能かをご説明いたします。

 

◆内定とは
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まず内定とは法的にどのような位置づけになるのかですが、
基本的に、採用内定通知に対して意思表示を求めるなどの特段のルールがない限りにおいては、求人募集は申込の誘引となり、これに対しての応募は【労働契約の申込み】、また採用内定の通知は申込に対する【承諾】となり、採用内定通知の段階で労働契約が成立するものとされます。

(大日本印刷事件 最高裁二小 昭和54年7月20日判決、電電公社近畿電通局事件 最高裁二小 昭和55年5月30日判決)

 

ただし、採用内定の前に内々定を経る場合には、後の内定の際に採用を確実とするものとなるため、内々定の時点では労働契約は成立しないものとされます。

 

 

◆内定における労働契約とは
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内定に関しての労働契約の取扱いに関しては、内定から就労開始までに一定の時間が空くことが多く、その間に一定の事由が生じた場合、採用内定を取り消す旨の条件が採用内定時に付けられていることが多くあります

(例:新卒の内定で【大学を卒業できなかった場合は、採用内定を取り消す】など)。

 

この形での内定は

「解約留保権付労働契約の成立」とされ、解約留保権の行使が認められるのは「採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的に認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる(上記の大日本印刷事件 最高裁判決による)

とされています。

 

また労働契約を結ぶ上で、不正競争防止法で定義される「営業秘密」(この秘密は不正の利益を得る、または損害を加える目的でその秘密を使用・開示してはならないとされ、それに対する差し止めや損害賠償請求も認められている。)

のみならず、会社で取り扱う情報すべては「労働契約上の信義誠実の原則(労働契約法第3条第4項)に基づく付随義務」として、労働者は、使用者の利益をことさらに害するような行為を避けるべき義務を負い、その一環として、使用者の業務上の秘密を漏らさない義務を負うものとされます。

(古河鉱業足尾製作所事件 東京高裁 昭和55年2月18日判決)

 

 

◆内定の取消の可否
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上記までの内容を踏まえますと、【秘密保持誓約書】の提出を拒むことは、誓約書の内容や拒否の理由にもよりますが、通常、労働契約の上で当然に発生する秘密保持義務の履行拒否と取ることができます。

 

つまり、秘密保持の誓約をせず、雇い入れる場合、営業秘密が守られるかどうかわからない状態で業務に従事されることとなり、そのような労働者には会社に関わる様々な業務を担っていただくことが困難となり、十分な労務提供が履行していただくことができないことになります。

 

結果、それは労働契約上の信頼・労務提供に支障をきたす結果となり、採用内定当時に【秘密保持義務を採用予定者が受け入れないことを知ることができなかった場合】には、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的に認められ社会通念上相当として是認することができ、採用内定取り消しが認められる可能性が高いと考えます。